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計算数理教育プログラム
ここでは、計算数理教育プログラムについて、その教育研究の背景を中心に少し広い視点からご紹介しましょう。
目次
1. 数理科学とは
2. 自然現象と数理現象
3. 数理科学とコンピュータ
4. 計算数理とは
5. 計算科学コースでの数理科学の基礎教育
6. 計算数理コースでの教育と研究
7. 卒業研究
1.数理科学とは
現代科学はさまざまな分野が互いに影響を及ぼしあって発展しています。数学もその例外ではありません。物理学をはじめとする理学の他の分野や工学あるいは経済学などの分野にも数学は関係し、影響を受けています。今日では、数学にそのような学際的な部分を取り入れた体系として「数理科学」という呼び方をすることも多くなっています。計算数理教育プログラムでは、この数理科学の教育研究を計算科学とのかかわりを大切にしながら進めています。
2.自然現象と数理現象
たとえば、天体の運動は万有引力の法則によって支配され、その運動法則は「質量×加速度=力」とあらわすことができます。加速度は時間についての2階微分であり、この式は数学的には微分方程式と呼ばれます。この方程式の解は時間の関数ですが、それは天体の運動にほかなりません。天体の運動は自然現象ですが、それを数学的にながめれば、微分方程式の解の挙動ということになります。これは微分方程式という数学的対象から生まれる現象、いわば「数理現象」ともいえます。
この例は自然現象が物理法則として明確な形であらわされる場合ですが、もっと複雑な自然現象や生命現象、社会現象にも、興味深い数理の世界が隠されています。そのような数理現象を具体的な問題から取り出し研究することで幅広い応用をもつ結果が得られるのです。それが数学、数理科学の特徴です。
3.数理科学とコンピュータ
コンピュータはその発明直後の1950年代から、自然科学・数理科学の研究に影響を与えるようになりました。専門用語が続いて申し訳ありませんが、有名な例として、Fermi、Pasta、Ulamの実験と呼ばれる非線形格子振動における再帰現象の発見(1953)、He'nonとHeilesによる銀河モデルの方程式に対するカオス的挙動の発見(1964)、ZabuskyとKruskalによるKdV方程式(浅い水波の運動を表す波動方程式)でのソリトンの発見(1965)などがあります。
当時のコンピュータの能力は今日とは比べものにならない低いものですが、いずれも人間の手では不可能な計算を行った、まさしくコンピュータシミュレーションであり、その結果は理論的には予想できなかった新しい現象の発見につながりました。これらをきっかけに非線形物理と呼ばれる新しい分野が生まれ、数学では力学系理論に大きな影響を与えるとともに、可積分系理論、さらに非線形数学といわれる分野を生み出す原動力になりました。
このような先駆的な研究から現代の研究にいたるまで、コンピュータは数理現象の発見・解明に大きな力を発揮し、今や数理科学の発展に不可欠なものになっています。上で述べたコンピュータシミュレーションは、数値計算と呼ばれる計算法にもとづくもので、数値シミュレーションと呼ぶこともあります。
これとは別のコンピュータによる計算として、数式処理という方法もあります。数式処理では数値を扱わず、文字式を対象として、その因数分解や微分・積分を行うことが可能になります。数式処理教育プログラムは1960年代に登場し、その研究は計算代数という分野を形成していますが、今日ではパソコン上で使えるMathematicaやMapleといったプログラミング言語の登場とともに、きわめてポピュラーになっています。さらにコンピュータグラフィックスは、極小曲面(石鹸膜はその例です)の研究など、幾何学の研究に大きく貢献しています。