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計算機実験学講座 | 計算実験教育プログラム 1 / 2
計算実験教育プログラム
1. 計算機実験学とは
2. シミュレーションは最先端技術
3. シミュレーションのもう一つの目的
4. 計算機実験学講座の教育・研究
5. シミュレーション研究成果の動画像紹介
1. 計算機実験学とは
計算機実験学は、一般ソフトの開発や計算機そのものの研究を行う学問ではありません。計算機実験(コンピュータシミュレーション)を通して自然界の現象の解明を行う学問です。
シミュレーションは、自然科学の諸分野(特に、物理、化学、生物など)における原理・法則を計算機を用いて解明する手法です。たとえば、計算機を使って運動方程式を解き、その結果を計算機を使って画像にすることで、現象や運動を直感的に理解しやすい形に表現できます。それを調べることで複雑な現象の本質を「理解」することが出来、その背後にある原理・法則を解明できるようになります。
複雑な現象を映像等に可視化して視覚に訴えることで難解なものが単純で親しみやすくなり、研究者が本質を理解しやすくなっただけでなく、多くの人にもその現象の重要さ、面白さがわかるようになったというのも大事なことです。
このようにシミュレーションは科学にとって重要な方法なのです。
2. シミュレーションは最先端技術
シミュレーションは理論、実験に加わる第三の科学(研究の手法)として産声をあげましたが、産業界、特に、最先端技術の世界もこの恩恵を受けることになりました。従来とまったく違う開発手法が得られたのです。
たとえば、製薬の分野では試行錯誤的な実験を繰り返して、薬の効果を調べていますが、分子の運動の基礎方程式を計算機で解くことで、分子の振る舞い、薬の効果を直接的に知ることが可能になりつつあります。これは新薬開発の飛躍的な発展につながり可能性を有しています。
また、海外からの安い素材に負けないためには高機能の(付加価値の高い)材料を開発しなければなりせんが、このような物質の設計を計算機を用いて行えば、従来よりはるかに低いコストでより高いパーフォーマンスの材料を開発することが出来ます。これらは、国際競争の激しい現在、科学・技術先進国である日本の威力の見せ所と言える分野です。
このように、シミュレーションは現代社会のニーズにマッチした応用研究であり、先端技術の分野でなくてはならない強力な研究手法になっています。シミュレーション研究には国も大きな資金をだしていますし、大学と企業の共同研究(シーズとニーズのマッチング)が産業界の大きな関心事の一つにあげられています。
3.シミュレーションのもう一つの目的
コンピュータシミュレーションの福音は技術分野だけにもたらされるものではありません。基礎科学の分野も恩恵を受けています。それは科学の方法、あるいは研究対象の範囲そのものが変わりつつあるということです。
シミュレーションによって、科学にもたらされた福音は
前者についてはすでに述べましたが、いま、研究者が期待しているのはこれまでの階層科学を越えた「階層をつなぐ科学法則の解明」です。これは科学の革命につながると期待されています。
われわれの世界はいろいろな階層から成り立っています。たとえば生物には細胞、たんぱく質、分子、原子...と多くの階層があります。そして、それぞれの階層では別々の法則が支配しています。たとえば、細胞の世界では生理学的法則、たんぱく質の世界では化学的法則、分子原子の世界では物理法則が支配していると考えらていす。
細胞の活動は多くのたんぱく質の働きから成り立ち、たんぱく質は分子原子の集まりであるように、本来はすべて基本となる法則(物理法則)から説明できるはずなのです。それにはどうしたらよいのでしょうか?シミュレーションによって上の階層(より大きなスケール)の現象を下の階層(より小さなスケール)の法則から説明できるようになってきました。高分子の複雑な振る舞いを個々の原子の運動方程式から説明できるようになりつつあります。これは「階層をまたぐ法則」の発見につながります。
階層をまたぐ法則が発見できれば、今まで考えもしなかった現象が説明できるようになります。たとえばたんぱく質同士の相互作用が計算できるようになれば、細胞の「メカニズム」を基本法則から説明できるようになるかもしれません。あるいは、「生命の進化」を分子レベルの「物理法則」から説明するといった夢物語も現実になるかもしれません。
シミュレーションによって「階層をまたぐ法則」を発見する試みはまだ始まったばかりですが、今後理学の分野では重要な学問になることは間違いないでしょう。